不動産あれこれ

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媒介業者の説明義務 その説明しなくていいの?

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戸建ての売買契約、あなたは売側の媒介業者A、買主にとってネガティブだけど重要な事実を知っている、売主本人も買側の媒介業者Bもそれを買主に説明しない。
どうします?

「説明しないと後々大変になりそう」「けど説明して契約が流れても困る」「買側の媒介じゃないし」なんて、判断に躊躇する場面です。

 

 

今回は媒介業者の説明義務の続きです。

以前、上階の騒音を理由に退去したマンションの賃借人が、賃貸を媒介した業者に対し、上階の騒音を説明しなかった説明義務違反を理由に損害賠償を求めた裁判例を紹介しました。

媒介業者は賠償を免れましたが、それは説明すべき騒音自体なかったからです。

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今回は逆に、説明すべき騒音等の事情があり、媒介業者も知っていたケースです。

同様の事例で、裁判所は、売側の媒介業者の説明義務違反を理由に、買主へ売買代金の2割(約450万円)を賠償するよう命じました。

実は、一審ではお咎めなし。控訴審で判断が逆転しています。
そこには、媒介業者の説明義務をより厳しく捉えた裁判所の考えがありました。

事案の概要 隣人が大変

細かいところは割愛しますが、登場人物は、冒頭のとおり、売主、売側の媒介業者A、買側の媒介業者B、買主です。

時系列は以下のとおり。隣人の方、相当子ども嫌いだったようです。

 ① H11.10 売主、土地建物を購入
 ② H11.11 売主、隣人より、子どもがうるさいと怒られる(事件①)
 ③ H12.3 売主、隣人より、洗濯物に水をかけられたり、泥を投げられる(事件②)
 ④ H13.9 売主、土地建物を売却すべく、媒介をAに依頼
買主、土地建物を購入すべく、媒介をBに依頼
 ⑤ H14.3

A、B、他の購入希望者で、土地建物を内覧したところ、隣人からうるさいと怒られる(事件③) 
その購入希望者、購入せず

 ⑥ H14.3 A、B、買主で、土地建物を内覧
隣人から苦情はなし
なお、Aは、売主やBに対し、事件③を買主に伝えるよう求めた

売主、買主、売買契約を締結
買主に交付された物件状況等報告書には「西側隣接地の住人の方より、騒音等による苦情がありました」との記載あり
その場で買主は売主らに子育て環境として適切かを確認したが、売主、A、Bともに、事件①~事件③について伝えることはなかった

 ⑦ H14.6 決済後、買主が土地建物を訪れたところ、隣人より「うるさい」「追い出してやる」などとホースで放水される
買主は一度も引っ越すことなく、居住を断念
 ⑧   - 買主、売主及びAに対し、売買契約の無効や損害賠償を求めて訴訟提起

第一審 Aに説明義務違反なし

第一審裁判所は、Aに説明義務違反なしとして、賠償を命じませんでした。

その理由は以下のとおりです。ポイントは2。

1 媒介業者は、隣人に関する事項について、説明義務を負わない。
    例外的にその営業活動上、隣人に関する客観的に明らかな事情を認識し、それが購入希望者の契約締結の可否の判断に重要な影響を及ぼすときには、説明義務を負う
2 ただし、購入希望者に直接伝えなくとも、購入希望者側の媒介業者に伝えるよう依頼すれば足る。

時系列⑥の前半のとおり、AはBに隣人との経緯を買主に伝えるよう依頼していました。そこでAとしての説明義務は果たされており、説明義務違反はないと判断されたのです。

控訴審 Aに説明義務違反あり 賠償額は売買価格の2割

判断のポイントは買主本人への説明

ところが、控訴審の裁判所は、一転してAに説明義務違反ありとし、売買価格の2割約450万円の賠償を命じます。その理由は以下のとおりですが、ポイントは②。

① 媒介業者は、購入希望者に重大な不利益をもたらすおそれがあり、その契約締結の可否の判断に影響を及ぼすことが予想される事項を認識している場合には、当該事項について説明義務を負う。
② その説明は購入希望者に直接するのでなければ、説明義務が尽くされたとはいえない。

第一審の1と控訴審の①は、表現は違えど実質的には同じこと。
これに対し、第一審の2では買側の媒介業者に伝えればよかったはずが、控訴審の②では購入希望者に直接伝えなければ説明義務を果たしたとはいえないとされました。
売主、買側の媒介業者が説明しないなら、売側の媒介業者が直接説明して説明義務を果たしなさいということです。

その理由として、宅建業法第35条第1項が、宅建業者からの説明対象者を「売買、交換若しくは貸借の各当事者」と規定していることが指摘されました。確かに「当事者」は買主です。買側の仲介ではありません。

宅建業者の社会的責任重視のあらわれ

けど、売側の媒介業者が、売主に不利な説明を自らしなければならないって、言葉では簡単ですが少々酷です。
契約が流れれば、怒られますからね。

にもかかわらず裁判所がこのような判断をした背景には、宅建業者への社会的信用をより重視したことにあるのでしょう。

最高裁判所は、一方当事者の媒介業者は、その委託者のみならず、委託関係にない他方当事者にも説明責任を負うとしましたが、それは宅建業者の社会的信用を重視してのことでした。

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この判断も、その延長上にあります。

「目先の利益にとらわれず、宅建業者としての社会的信用に応えなさい。契約が流れそうでも、説明すべきことは説明しなきゃ。」ということです。

まとめ

冒頭の「どうします?」ですが、売側の媒介業者Aは、時系列⑥のとおり、売主や買側の媒介業者に買主へ説明するよう要望する、物件状況等報告書に「西側隣接地の住人の方より、騒音等による苦情がありました」と記載することで、説明義務を果たそうとしました。

A自ら契約を流さないためのぎりぎりの策だったと想像します。

ですが、裁判所の考えは、売主や買側の媒介業者が説明しないなら売側の媒介業者が自ら説明すべきだったし、物件状況等報告書の内容も説明として不十分というものでした。

決済まで終えなければ収益に結びつかない、かといって微妙なバランスで切り抜けようとすればリスクが忍び寄る、そんなことがよく伝わる事例です。

宅建業者への社会的信用に応え、風通し良く説明することが求められているのです。