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「正直不動産」第74直レビュー 眺望と説明義務違反

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「富士山がドーン」、マンションの眺望のお話し、後編です。

花澤は、島村夫妻に紹介したマンションと富士山との間にマンションが新築されることを知っていました。もちろん、眺望が「富士山がドーン」でなくなることも知っていたはず。
知らぬふりまでして売った背景には、自身のつらい過去がありました。

善し悪しはともかく(悪いけど)、月下が成長するきっかけになったことは間違いなさそうです。

 

あらすじ(ネタばれあります 核心はビックコミックで)

 

登場人物

永瀬財地 登坂不動産の副課長
かつては成約のためには嘘も厭わないエース営業だったが、
ひょんなことから上手く嘘がつけなくなってしまった。

月下咲良 登坂不動産の新入社員
カスタマーファーストの営業を身上に奮闘中。

花澤涼子 ミネルヴァ不動産の新入社員
月下の顧客島村夫妻にマンションを紹介、売買契約をさせる。

 

あらすじ

月下は「富士山がドーン」とみえるマンションを探す島村夫妻の担当になります。

しかし、せっかちな島村(夫)は待ちきれず、ライバルのミネルヴァ不動産の媒介で契約してしまいました。担当は、最近転職してきた花澤という女性です。

確かに「富士山がドーン」なのですが、実はそのマンションと富士山の間にマンションが新築されることが明らかに。

島村(夫)は花澤の説明義務違反を理由に契約解除を迫ります。
しかし、花澤は「マンションが建つとは知りませんでした」「説明義務違反はありません」と応じません。

やがて、島村(夫)の暴走に愛想を尽かした島村(妻)から離婚話が出てしまい・・・。

 

月下に成長の起爆剤を投下

後編は、月下が花澤の説明義務違反をどう追及するかが焦点と予想していました。
ですが、またまた予想は裏切られました。

yhiro.hatenadiary.jp

 

説明義務違反を巡る攻防はなく、島村夫妻は思い直してマンションを購入することに。
確かに、「富士山がドーン」以外は希望どおりでしたからね。
それ以外では好物件だったということでしょう。

そのなかで月下が成長への決意を見せます。
これまでの月下なら、島村夫妻にマンション購入をやめさせよう、離婚を思いとどまらせようと躍起になるところ。

しかし、マンションを購入したい島村夫妻の意思を尊重、離婚話は見守りながら、双方に賃貸物件を紹介して売上に結びつけるという、転んでもただでは起きない対応ぶりです。

花澤の「タフでなければ生き抜けない」という言葉が響きましたね。解釈は花澤と少し違いますが、成長を決意させるに充分でした。
「女だからっていつまでも甘えてんじゃねぇ」という大河部長の叱責も効いたようですが。

これまで身上のカスタマーファーストが成長の足かせになっていた感のある月下でしたが、これをきっかけにどんな不動産営業をみせるか楽しみです。

神木、桐山等、正直不動産のエース営業には、そうさせた過去が描かれています。同様の花澤もいずれエース営業の仲間入りでしょうか。

不動産営業の裏側を暴露しつつ、人間ドラマも丁寧に描く正直不動産、次回は7月10日頃発売のビックコミックにて。

 

眺望に関する説明義務違反を巡る事例

後編では、月下の成長がメインで、説明義務違反について突っ込んだ描写はなし。

そこで、今回はマンションの眺望を巡る裁判で売主(業者)の説明義務違反ないとされた事例について、裁判所の判断過程をみてみましょう。

眺望をセールスポイントの一つとしてマンションを売却したら、近隣にマンションが新築された。買主から「眺望が悪くなった。説明と違う。」と迫られたときの参考になります。

事例は、マンションの高層階を購入したAが、売主B(業者)が近隣に別のマンションを建築した結果、眺望が悪くなったとして説明義務違反等に基づく損害賠償を求めたというものです。

 

購入者Aの指摘(パンフレットの記載)

購入者Aはパンフレットの記載を指摘して、セールスポイントである眺望が将来的にも妨げられることはないかのように説明されたと主張しました。

確かに、パンフレットには、きらびやかな光に溢れた夜景や、近辺に眺望を阻害する建築物がほとんどなく、遠く遠方まで見渡すことができる日中の景色など、良好な眺望をアピールするかのような写真が掲載されていました。さらに次のような記載もありました。

都心を見下ろす優雅。

都心の超高層は、眺望がクローズアップされます。それは、都心に住まうステイタスであり、ゆとりある暮らしの象徴でもあります。24時間輝きを失わない風景は,窓の外に展開される都心の大自然。陽が昇り、雲が流れ、西の空が赤く染まる、やがて月の光の下に、光のレビューが始まる・・・。都心の超高層ならではのその光景は、ここだけに許された優雅でもあります。

都心のパノラマ指定席。

窓辺に腰掛け、都心風景を楽しむ・・・。目線の都心とは全く異なる風景が、窓の外に広がる時、今までになかった時間の流れを感じるはず。それが、都心の超高層に住まうことの実感。あなただけのパノラマ指定席が暮らしに潤いと安らぎを運んでくれます。

朝日を浴びる東面,生駒山を間近に望む眺望。上層階の東方向を望む住戸からは,生駒山を背景に上町台地を望む眺望をお楽しみいただけます。朝日がやさしく差し込む窓辺は,早起きしたくなる朝の眺めが自慢です。

 

しかし、裁判所は、以下のとおり、売主が現在の眺望を将来的にも保証したわけではないとしました。

 

本件売買契約締結当時、本件マンションの高層階から良好な眺望が得られること自体は真実であって、これをセールスポイントの一つにすることはマンション販売の現場において通常のことである 

不動産営業に限らず、営業の一般的な認識について、裁判所から一定の理解が示されています。

 

眺望に関する上記の写真・記載は,全体で50頁を超えるパンフレットのごく一部に掲載されたものに過ぎない。むしろ、パンフレットでは、立地条件等を主要なセールスポイントとして記載されている。

眺望だけがセールスポイントではなかったことが重視されています。
眺望以外にもセールスポイントがあり、買主もそれも購入の動機としていたであろうにもかかわらず、ことさらに眺望を重視することへの疑問が呈されました。
パンフレットの頁数は分かりやすい引用です。

 

パンフレットの上記写真・記載は,あくまでも現在の眺望に関するものであって、これが将来的にも保証されるものであるとの記載はないし、また、そのような誤信を与えるようなものともいえない。 

高層マンションとはいえ都心に位置します。
現在の眺望が将来にわたって保証されるものではないことは当然でしょう。
かといって、「永遠の眺望」なんて誤解を招くキャッチをつけてはいけません。

ただ、買主が裁判まで提起した背景には、近隣に新築され眺望を妨げることになった高層マンションが実は売主によるものだったという事実があったことには留意が必要です。
販売当時、売主にはマンション新築の予定はなかったのですが(敷地の取得も決まっていなかった)、買主の心情としては、騙された感があり、それが裁判の原動力になったとしても不思議ではありません。

 

まとめ

眺望そのものを法律で保護してもらうことは難しい。
そのため、買主側は「話が違う」と説明義務違反の追及も視野に入れます。

売主側としては、特に眺望にこだわる購入希望者には、あえて一歩引き眺望を強調した営業はしない、逆に他のセールスポイントをバランスよくちりばめて営業すべきということになります。そうすれば、「眺望はセールスポイントの一つ。ことさら重視すべきものではない。」と主張しやすくなります。

もちろん、重要事項説明の記載も重要です。

この裁判では、重要事項説明の記載も重要な判断要素になりました。

長くなりましたので、その内容は次回に。