不動産あれこれ

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地面師事件 媒介業者の本人確認

積水ハウスの地面師事件は、売主への本人確認が不十分だった事案でした。この本人確認についても、裁判上問題になった事例が多数あります。

今回も媒介業者が責任追及された事案をみてみましょう。

なお、第1売買の真正の確認が不十分だったことについて、第2売買の媒介業者が賠償を求められた事案については以下を参照ください。

yhiro.hatenadiary.jp

 本人確認が不十分で買主が損害を被る典型例は、売主が偽で、買主が売買代金を詐取される事案です。f:id:YHIRO:20200604053431p:plain
買主は、詐取された金額について、自分の(買側の)媒介業者にはもちろんですが、こんな偽売主を紹介した売側の媒介業者にも損害賠償請求したいところ。

売側の媒介業者は「私はあなたの(買側の)媒介ではありません」「売主が一枚上手でした。私も被害者です」と反論します。「私も被害者です」との反論は、買側の媒介業者からもありそうです。

以下では、媒介業者が「責任を負う相手」、「確認すべき程度」に分けてみていきます。

「責任を負う相手」 売側の媒介業者は買主に法的責任を負う?

買側の媒介業者は、買主に法的責任を負う立場にあります。
買主と媒介契約を結んでますからね。まずいことになれば、その契約に基づき法的責任を問われることは当然です。

一方、売側の媒介業者は、買主から媒介を依頼されたわけではなく、買主と契約関係にありません。
ですから、売主が偽だったと損害賠償請求されても、「あなたの(買側の)媒介ではありません」なんて言いたくなるわけです。

ですが、最高裁判所は、おおよそ以下のとおり述べ、売側の媒介業者も、買主へ法的責任を負うとします。

宅建業者は、専門知識や経験があり、一般第三者に信頼されている。
②それゆえ、直接契約関係になくても、信頼して取引関係に入った一般第三者に損害を被らせないよう配慮すべき一般的な注意義務がある。
③その注意義務に反して第三者が損害を被らせたら賠償しなければならない。

ですから、売側の媒介業者が、その注意義務に反して偽の売主を連れてきてしまったら、買主から損害賠償請求されることもあるわけです。

「その程度」 どこまで本人確認すれば注意義務に違反しない?

「印鑑証明書と身分証で確認しましたが精巧な偽造でした。偽者が一枚上手でした」
「誰も見破れません 注意義務は尽くしました」
「私も被害者です」

売側・買側問わず、媒介業者の本音です。

では「注意義務を尽くした」といえるために、本人確認をどこまですればよいか。
決定的な基準はありません。ケースバイケースです。

印鑑証明書・勤務先会社の身分証明書(いずれも偽造)を確認したケース

これは、偽の土地所有者(A)が、借地権設定の権利金名目で、借地希望者より金員を詐取した事例です。
借地希望者は、Aを紹介した媒介業者に、詐取された金額の賠償を求めました。

前述のとおり、媒介業者は、直接の契約関係にない借地希望者に対しても、損害を被らせない注意義務を負います。

ただ、Aが持参した印鑑証明書・勤務先会社の身分証明書(いずれも偽造)に基づき、Aを真正な土地所有者と信じたとして「注意義務を尽くした」と主張しました。

しかし、最高裁判所は以下を指摘して、注意義務を尽くしたとはいえないとし、媒介業者に賠償を命じます。

① 登記簿上の土地所有権取得時期に照らすと、Aが若すぎる。
② 登記簿上の住所と、印鑑証明書上の住所が異なっている。
③ 印鑑証明書上の住所を訪れて確認したが、Aの居住を確認できなかった。
④ ①~③に照らせば、「怪しい」と疑って、さらに権利証の提示を求めたり、住民票を取得する等して、Aのが本物かどうか確認すべきだったのに、これを怠った。

この印鑑証明書の偽造は精巧で、偽造と見破ることは難しかったようです。
ただ、最高裁判所は、それでも怪しい周辺事情があれば追加で確認すべきで、それを怠れば注意義務を尽くしたとはいえないと指摘したわけです。

運転免許証(偽造)を確認したケース

これは、偽の土地所有者(B)が、売買代金名目で、買主より金員を詐取した事例です。
買主は、Bを紹介した売側の媒介業者に対し、詐取された金額の賠償を求めました。

売側の媒介業者は、以下によりBを本人と信じた、注意義務は尽くしたと主張します。

①契約前、Bが持参した運転免許証(偽造)を提示された(買主、司法書士、公証人も偽造と見破れなかった)。
②契約後、Bが公証役場で認証を受けた委任状(登記済証を紛失していたため)を提示された。

Bが権利証を持っていなかったり、「自宅に来ないでほしい」と述べていた等不審な点もあったのですが、裁判所は以下のとおり、注意義務を尽くしていないとはいえないとして、媒介業者の責任を否定しました。

①運転免許証に偽造と疑うべき事情は認められない。
②その他、Bが偽と疑うべき事情がなかった。
③とすると、自宅の訪問等をしなかったとしても、本人確認について注意義務を尽くさなかったとはいえない。

まとめ 

整理しましょう。

① まず、媒介業者は、委託関係にない取引当事者にも注意義務を負います。この義務に反して損害を被らせると、賠償しなければなりません。

② 次に、本人確認は、基本的に運転免許証、印鑑証明書等の資料で行います。その資料や周辺事情に不審がなければ、本人確認としては充分です。ただし、不審な点があれば、深掘りして調査しないと、注意義務違反を問われます。
  不審な点があった例は、最初に挙げた事例です。怪しければ、賃貸借契約であっても権利証の提出を求めたり、印鑑証明書があってもあえて住民票の提出を求めるまでしないと、注意義務を尽くしたことになりません。

媒介業者の方、契約関係にない取引当事者からも賠償請求されることを意識して、本人確認を心がけましょう。

今回は媒介業者の本人確認についてでしたが、司法書士の本人確認もまたいろいろな事例があります。この点はまたの機会に。