不動産あれこれ

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近隣問題に媒介業者は法的責任を負うか

コロナ禍での外出自粛で、入居者から騒音の苦情が増加しています。

全国賃貸住宅新聞のWEB、2020年5月18日付の記事によると、通常月10件ほどの騒音に関する苦情が月50件を超えた、1日2,3件のペースで入居者から連絡が入るといった管理業者の話が掲載されています。

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このような苦情は、通常オーナーや管理会社に向けられます。ところが、「こんな部屋を紹介した業者が悪い」と賃貸の媒介業者に向けられ、裁判まで発展した事例があります。

不動産の環境的瑕疵について媒介業者がどこまで責任を負うかですね。

 事案 ~上階からの異音を説明しなかったことは違法~

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ある家族(A)は建物の一室を賃借していました。しかし、深夜から早朝に発せられる上階からの擦過音や振動音に耐えられず、入居から約5ヶ月で賃貸借契約を解除して退去します。
Aは、媒介業者が上階からの異音を説明しなかったことは宅建業者としての説明義務違反で不法行為にあたるとして、同媒介業者に慰謝料等の支払いを求め、訴訟提起しました。

裁判所の判断 ~そもそも違法といえる異音がない~

裁判所は、以下のとおり、Aの請求を棄却しました。

① Aの入居期間中、上階の居住者が,夜間等に複数回にわたりAに認識されるような異音を発したことは認められる。
② しかし、その程度は違法といえるほど、ひどいものだったとはいえない。
  なぜなら、Aの入居前の賃借人、Aの退去後の賃借人がそのような苦情を述べていないし、A自身もそれほど真摯に苦情を述べて改善を求めていた事実が認められないからである。
③ このように違法といえる異音があったとはいえない以上、媒介業者には重要事項説明書に記載して説明すべきだったとはいえず、説明しなくても問題ない。

Aの主張する騒音は認められないから、媒介業者の説明義務が問題になる余地はないというそもそも論で決着してしまいました。
そのため、媒介業者の説明義務の程度や中身まで踏み込んだ判断はなされませんでした。

まとめ

Aの主張するひどい異音があったとはいえない以上、重要事項説明書に記載すべきだったとも、説明すべきだったともいえない。結論はシンプルですね。

ただ、賃貸、売買を問わず、不動産の環境的瑕疵に関する裁判例は多数あり、いつ争われても不思議ではありません。

例えば、このようなことが争われています。

冠水

土地の周辺が冠水しやすいという事実が瑕疵にあたるとして買主が売主を訴えた事案では、瑕疵はなく、売主に説明義務違反もないとされました。

生物

中古住宅にコウモリが多数生息することが瑕疵にあたるとして買主が売主・媒介業者を訴えた事案では、瑕疵があり、売主に損害賠償義務があるとされました。
媒介業者については、一見して明らかにコウモリの生息を疑うべき特段の事情がないので、説明しなくとも問題ないとされました。逆にそのような特段の事情があれば、媒介業者も調査、説明を果たさないと法的責任を問われます。

環境的瑕疵も、物理的瑕疵、心理的瑕疵(居室での自殺等)と並んでトラブルのもとになります。これを回避するには、どのような瑕疵が問題となり得るのかアンテナをたて、充分な調査と説明を心がけなければなりません。

「そんなことしてたら、商売にならない」との意見も聞こえてきます。

確かに、紹介の騒音の事例では事無きを得ました。
しかし、住宅の売買で、近隣トラブルについての充分な説明を欠いたため、媒介業者に500万円近い損害賠償が命ぜられた事案があります。

環境的瑕疵にも充分な注意が必要と感じさせる事例です。

長くなりましたので、こちらは次回。