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「正直不動産」第73直レビュー 眺望はあれば幸い

f:id:YHIRO:20200611174111j:plain「正直不動産」、今回は「富士山がドーン」、マンションの眺望のお話しです。

眺望のよさはマンションの商品力を高めます。そのよさを強調する広告を目にすることもしばしばです。
ただ、安易な強調はトラブルの種。実際、二条城がみえない、富士山がみえない等、買主が売主を訴え裁判にまでなった事例もあります。

今回の「富士山がドーン」も、同じ臭いが・・・。

 

あらすじ(ネタばれあります 核心はビックコミックで)

登場人物

永瀬財地 登坂不動産の副課長
かつては成約のためには嘘も厭わないエース営業だったが、
ひょんなことから上手く嘘がつけなくなってしまった。

月下咲良 登坂不動産の新入社員
カスタマーファーストの営業を身上に奮闘中。

花澤涼子 ミネルヴァ不動産の新入社員
月下の顧客島村夫妻にマンションを紹介、売買契約をさせる。

あらすじ

月下は「富士山がドーン」とみえるマンションを探す島村夫妻の担当になります。
カスタマーファーストが身上の月下は、紹介できる物件を自分の足で探します。
しかし、せっかちな島村(夫)は待ちきれず、他社の媒介で契約してしまいました。

その他社とは、ライバルのミネルヴァ不動産。担当は最近転職してきた花澤という女性です。

確かに「富士山がドーン」なのですが、実はそのマンションと富士山の間にマンションが新築されることが分かって・・・。

 

眺望は法的保護の対象になりにくい

島村(夫)の主張は、隣にマンションが新築されれば「富士山がドーン」じゃなくなる、眺望が侵害される、話が違う、というものです。契約を解除して手付金を返して欲しいようです。

ですが、裁判所が「眺望が侵害される」を正面から認めるハードルは極めて高い。

眺望の考え方

眺望は「法的利益か」と「侵害されたか」に分けて考えます。

眺望が「法的利益か」、侵害から法律で守ってあげるまでの利益かは長年のテーマです。

確かに眺望は良いに越したことはありません。
ただ、たまたまその場所だから楽しめても、永続的に保証されるものではありません。
たまたま、ひとときのものを、法律で守ってあげる必要があるのか、疑問があるわけです。

ハードルは高し

そんな疑問もあり、裁判所はハードルを高く設定します。
代表的な裁判例では、眺望が法的利益とされる要件を以下のとおり示しました
「社会観念上からも独自の利益として承認せられるべき重要性」なんで無理でしょ。

① 特定の場所がその場所からの眺望の点で格別の価値を持つ
② 当該建物の所有者ないし占有者によるその建物からの眺望利益の亨受が社会観念上からも独自の利益として承認せられるべき重要性を有する

これ花澤が言ったとおりです。勉強家ですね。
月下への言葉にも並々ならぬ向上心を感じます。過去にそうさせる何かがあったのかも。

島村(夫)が契約したマンションはよくある街中のマンションです。たまたま「富士山がドーン」でしたが、これを遮らせない法的利益にまで高めることは難しいでしょう。

先ほど紹介した裁判例はいわゆるタワーマンションに関する事例でしたが、眺望に法的利益を認めませんでした。

今眺望がよくても、それはたまたま周辺に同程度の高層マンションが存在していなかった結果に過ぎないとバッサリです。

 

説明義務違反ならどうか?

「眺望が侵害される」がだめなら、「話が違う」ならどうでしょう。
売主や媒介が「富士山がドーン」じゃなくなることについて説明を怠ったと説明義務違反を追及するのです。

ただ、劇中では売主(再販業者のようです)が登場しません。そのため、「富士山がドーン」についてどのようなやりとりがあったは不明、説明義務違反があるかも不明です。

となると、次回は媒介した花澤の説明義務違反を軸に物語が展開しそうです。

ええ、花澤は「マンションが建つなんて知らなかった」等々知らぬ存ぜぬのようですが。

月下、カスタマーファーストで突破できるか?

けど想像の斜め上をいくのが「正直不動産」。それも含めて次号を待ちます。

yhiro.hatenadiary.jp

まとめ

眺望そのものを法律で守ってもらうのは難しい。狭い日本、建物が建てば、その分眺望が遮られることは当然です。

ですがマンションを売ろうとすれば、眺望のすばらしさも強調してしまいがち。そこが紛争の種どころです。

売主や媒介の説明がからんでくると、眺望が法的利益かどうかより、売主や媒介に説明義務違反がなかったかが争点となります。
眺望そのものに法的利益が認められなくても、買主の求めに誤った説明を返すとそれ自体が説明義務違反となりうるからです。

先に触れた二条城の件でも、売主の「マンションから二条城がみえる」という説明が、説明時点ですでに誤っていたとして、売買契約の解除、損害賠償が認められています。
長くなるので、眺望を巡る説明義務については、またの機会に触れます。

月下VS花澤が激しく火花を散らしています。

ビックコミック、新刊は6月25日頃発売です。