「正直不動産」第76直レビュー その特約、消費者契約法上どうなの?
「正直不動産」、前回に引き続き「改正民法を正直者に語らせたらこうなった」のお話しです。
「悪徳オーナー」と噂される松崎を怒らせた永瀬。
その許しを得るべく、松崎に有利な特約を盛り込んだ契約書のひな形を完成させます。
けど、そもそもその特約、無効では・・?
あらすじ(ネタばれあり 核心はビックコミックで)
登場人物
永瀬財地 登坂不動産の副課長
かつては成約のために嘘も厭わないエース営業だったが、
ひょんなことから上手く嘘がつけなくなってしまった。
月下咲良 登坂不動産の新入社員
カスタマーファーストの営業を身上に奮闘中。
松崎将吉 地主・オーナー
「原状復帰を盾に敷金を返さない悪徳オーナー」との噂。
賃借人に有利な改正民法を知りショックを受ける。
第1話以来の登場。
あらすじ
前回、松崎を「チンパンジー」呼ばわりして怒らせた永瀬。
原状回復について松崎に有利な特約を盛り込んだ契約書のひな形を届ければ、許してもらえることになりました。
原状回復でいちゃもんをつけて敷金を返さないと噂される松崎、まだまだ懲りないようですが、売上ダウンにあえぐ登坂不動産の上客であることに変わりありません。
松崎をなだめたのは藤原課長。第13話で感じ悪く登場しましたが、以降、息長く存在感を示しています。
永瀬は、
「賃借人は、床等に跡がつかないよう防護マットを必ず敷設する」
「ルームクリーニングを賃貸人が行うことに同意する」
等々松崎に有利な特約を盛り込んだ契約書ひな形を作成します。
しかし、「俺は俺のやり方で戦ってやる」と破り捨て、松崎と決別する途を選びます。
大河部長の叱咤や、月下の「どこよりも正直な不動産屋だというのが、他店との差別化になる」の言葉も後押しになりました。
その数ヶ月後、松崎が店舗にやってきて・・・。
オーナーに有利な特約と消費者契約法
永瀬が作成した特約「ルームクリーニングを賃貸人が行うことに同意する」は、オーナーが高額なルームクリーニングをして、その費用を退去した賃借人に負担してもらうためのものでしょう。
今回は日の目をみませんでしたが、この特約があれば松崎も安心かというと、そうでもありません。
確かに、2020年4月1日施行の改正民法にて、自然損耗・通常損耗の原状回復費用はオーナー負担であると定められましたが特約による変更も可能です。
ですが、自然損耗等の原状回復費用を賃借人の負担とするとの特約が、消費者契約法により無効とされた事案があるので要注意です。
事案
オーナーAは、賃借人Bにマンションを賃貸しました。
その際、自然損耗及び通常の使用による損耗について賃借人に原状回復費用を負担させるとの特約を結びました。
Bが退去する際、Aは同特約どおり、自然損耗等の原状回復を敷金から控除しました。
Bは同特約は消費者契約法第10条により無効として、Aに敷金の返還を求め訴訟提起します。
その主張内容は「特約は消費者契約法第10条の『民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの』なので無効。だから敷金から控除してはならない」というものです。
消費者契約法第10条
消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。
裁判所「特約は消費者契約法により無効」
裁判所は、Bの主張を認めました。
最大ポイントは以下の部分です。
本件原状回復特約により自然損耗等についての原状回復費用を賃借人に負担させることは、賃借人の二重の負担の問題が生じ、賃貸人に不当な利得を生じさせる一方、賃借人には不利益であり、信義則にも反する。
要は、以下のとおりです。
① 自然損耗等のための原状回復費用は賃料に含まれている。
② だからその費用を賃借人に負担させることは、賃借人の不利益のもとオーナーに二重取りをさせるということ。
③ これは、民法第1条第2項に規定する基本原則(信義則)に反して消費者の利益を一方的に害するものだから、消費者契約法第10条に引っかかり無効である。
もちろん、賃料に自然損耗等のための原状回復費用が含まれないなら、この点はクリアーできます。二重取りになりませんからね。
ただ、その賃料に原状回復費用が含まれていないことの立証はオーナーがしなければなりませんが、困難でしょう。
少なくとも消費者契約法上では、自然損耗等にかかる原状回復費用を賃借人に負担させる旨の特約は無効にされるリスクが非常に高いということです。
まとめ
永瀬は、後日店舗にやってきた松崎に正直ベースの賃貸運営を提案しましたが、前述の事例に照らせば正しかったということです。
原状回復の特約以外にも、消費者契約法により無効ではないかが問題とされた特約があります。
以下は一例です。
① 敷引特約の有効性
② 中途解約におけるペナルティ特約の有効性
③ 更新料特約の有効性
オーナーに有利な特約については、「消費者契約法上、大丈夫か」という視点での検証が不可欠です。