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眺望と説明義務違反 重説編

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前回、高層マンションの買主が、売主(業者)の説明義務違反を理由に損害賠償を求めた裁判例についてお話ししました。

yhiro.hatenadiary.jp

 裁判所は、まず、販売用パンフレットの記載を引用しながら、「売主が現在の眺望が将来的にも保証されるかのように説明した事実はない」「説明義務違反はない」としました(これが前回のお話し)。

さらに、重要事項説明書の記載も引用して、同様の結論を導いています。

今回は、その重要事項説明書の記載をみてみましょう。

周辺環境の変動について、いつもの定型文を貼り付けて済まさなかったことが奏功しています。

 

 

重要事項説明書の記載

重要事項説明書の記載は以下のとおりです。
売主は、その記載を引用し、現在の眺望が将来的にも保証されるかのように説明した事実はない旨主張しました。

購入者には、周辺環境について、以下の事項をあらかじめ承諾していただきます。 

将来本マンション隣接地および周辺に都市計画法建築基準法等法律および湊町再開発地区計画等の許容する範囲内の中高層建築物が建築される場合があること、特に本マンション南側道路をはさんだ近接地およびOCATをはさんだ東側近隣地は開発予定であり、本マンションの眺望、日照条件、交通量等に変化が生じる場合があること等、周辺環境を充分調査確認のうえこの契約を締結し、以後この環境について売主および関係者に対し何ら異議を申し立てないこと。 

 

裁判所の判断

同記載について裁判所は以下のとおり述べ、買主は、重要事項説明書の記載について説明を受け納得したうえで売買契約を締結したと結論づけました。
買主は、近隣に中高層建築物が建設され、現在の眺望に変化が生じる可能性があることを分かっていたということです。なお、赤字はポイントになる記載です。

本件条項は,本件敷地に将来中高層建築物が建築され,眺望に変化が生じる可能性がある旨を具体的に記載したものであって,その内容は格別難解なものではないし,格別見難い場所に分かりにくく記載されているというわけでもない。 

原告らは,本件条項が定型文言であると主張するが,「OCATをはさんだ東側近接地」と具体的に特定した上でのものであって,一般的・抽象的な定型文言とは明らかに異なっている。 


「具体的に記載した」
「一般的・抽象的な定型文言とは明らかに異なっている」

重要事項説明書の「特に本マンション南側道路をはさんだ近接地およびOCATをはさんだ東側近隣地は開発予定であり」との記載です。

売買対象のマンションの周辺敷地を「南側道路を挟んだ近隣地」「OCATを挟んだ東側近隣地」と個別具体的に特定したうえで、「開発予定」とまで触れ、眺望に変化が生ずる可能性を指摘しています。

周辺環境の変化について、重要事項説明書に定型文を貼り付けて済ませてしまうこと、ありませんか?例えば、「買主は以下を了解します」としたうえで、こんな風に。

周辺環境につきましては,建築物の建築,建替え,増改築等により将来変わる場合があること。また,本件建物の隣接地は第三者の所有地となっており,将来の土地利用または建築計画に関して売主の権限のおよぶ範囲ではなく,一般的には都市計画法建築基準法その他の法令等による制限の範囲に該当する建築物であれば建造が許可されるため,将来本物件の日照・眺望・通風・景観等の住環境に変化が生じ,現在と異なる近隣および周辺環境になる場合があること

定型文は楽ですが、周辺環境の変化について個別具体的な説明をしたことを裏付けることは難しい。個別具体的な記載がないのに、個別具体的に説明したと主張することには無理があります。

個別具体的に説明したと主張できるよう、重要事項説明書の記載自体、個別具体的にすることを心がけましょう。


「内容は格別難解なものではない」

個別具体的に記載すれば、その分内容は理解しやすくなります。


「格別見難い場所に分かりにくく記載されているというわけでもない。」

目立たないところに記載してうやむやにしようとしているなんて印象を持たれないよう、ネガティブな事情であれば、その分繰り返し、かつ分かりやすいところに記載することが必要です。
 

 以上を踏まえ、裁判所は以下のとおり、売主に眺望に関する説明義務違反はないと判断しました。

以上のとおり,原告らは,本件条項(本件敷地に中高層建築物が建築され,眺望に変化が生じる可能性があること)の説明を受け,これを納得した上で,本件条項を特約条項に含む本件売買契約を締結したものと認められる。 

 

まとめ

前回のパンフレットの記載に続き、重要事項説明書の記載より、売主が説明義務を尽くした旨判断された裁判例のお話しでした。

キーワードは「具体的な記載」。

定型文の貼り付けで済まさないことが大切です。