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孤独死後の説明と告知

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先日、(公社)全国宅地建物取引業協会連合会の不動産総合研究所が、令和元年度(2019年度)「住宅確保要配慮者等の居住支援に関する調査研究報告書」を公表しました。

孤独死があった場合の説明・告知のあり方が整理されています。

 

以前、自殺ではない居室内での孤独死について、オーナーが損害賠償や原状回復費用を請求できる範囲を、改正民法第621条との関係でお話ししました。

yhiro.hatenadiary.jp

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今回は、原状回復が一段落し、新たに賃貸する際、過去の孤独死を説明・告知すべきかについてです。

人が亡くなっている以上事故物件として説明・告知しなければらないような、他殺・自殺ではないから説明・告知を要しないような、判断に迷うところです。

 

原則として説明・告知を要しない


整理された内容は以下のとおりです。

① 孤独死については、原則として説明・告知の必要はない。
② 臭気等によって近隣から居住者に異変が生じている可能性が指摘された後に孤独死の事実が発覚した場合には、説明・告知をする必要がある
③ ②の場合であっても、次の借り主が、通常想定される契約期間の満了まで当該物件の利用を継続した場合には、貸し主はその次の借り主に対し説明告知する必要はない。
④ 媒介事業者は、事業者としての通常の注意に基づき②の事実を知った場合に限り、②③と同等の取り扱いをするものとする。

 以下、各整理について見てみましょう。

 

① 孤独死については、原則として説明・告知の必要はない。


他殺・自殺以外の病死等で人が亡くなることは、人として避けられない以上、事故物件と扱うことは不自然という立場をとっています。

以下のとおり、「そのような死が発生することは、当然に予想される」と述べる東京地裁平成19年3月9日の見解にも合致します。

なお、そもそも住居内において人が重篤な病気に罹患して死亡したり,ガス中毒などの事故で死亡したりすることは,経験則上,ある程度の割合で発生しうることである。そして,失火やガス器具の整備に落度があるなどの場合には,居住者に責任があるといえるとしても,本件のように,突然に心筋梗塞が発症して死亡したり,あるいは,自宅療養中に死に至ることなどは,そこが借家であるとしても,人間の生活の本拠である以上,そのような死が発生しうることは,当然に予想されるところである。したがって,老衰や病気等による借家での自然死について,当然に借家人に債務不履行責任や不法行為責任を問うことはできないというべきである。


② 臭気等によって近隣から居住者に異変が生じている可能性が指摘された後に孤独死の事実が発覚した場合には、説明・告知をする必要がある


前①のとおり説明・告知を要しないとしても、近隣がこれを知っていそうなときには、あえて説明・告知をしておこうということです。

賃借人が近隣を通じて初めて事情を知ったとなると、「オーナーは隠していたのではないか」といらぬ疑念を生じさせ、トラブルの原因になるからです。

孤独死=事故物件かどうかを超えて、トラブル予防の観点からの政策的な提言といえます。


③ ②の場合であっても、次の借り主が、通常想定される契約期間の満了まで当該物件の利用を継続した場合には、貸し主はその次の借り主に対し説明告知する必要はない。


説明・告知は、次の賃借人まででよいということです。
「通常想定される契約期間」はおおよそ2年~3年ですから、その期間賃貸されれば、その次の賃借人には説明・告知を要しないことになります。


④ 媒介事業者は、事業者としての通常の注意に基づき②の事実を知った場合に限り、②③と同等の取り扱いをするものとする。


媒介業者の説明・告知に一定の線引きをしています。

媒介業者の説明・告知義務は無限ではなく、善管注意義務・誠実義務を尽くせる範囲にとどまります。

例えば、オーナー等から知らされたときはもちろんですが、メディアやインターネットにてとりあげられていたときは、詳細を調査できる範囲で説明・告知しなければなりません。

ただ、これを超え、その孤独死が容易に知り得なかったなら、「通常の注意」によっても知ることができないとして、説明・告知を要しないことになります。

 

まとめ


この考え方の整理は、住宅の確保が困難な高齢者等のために不動産業者が果たすべき役割を検討する過程でなされました。

他殺・自殺によらない死によって事故物件化されるようでは、オーナーも賃貸に及び腰になって当然です。
このような課題に不動産業者としてどのように取り組めるか、説明・告知の観点から考え方を整理したもので、前向きに評価できるのではないでしょうか。

予想されることなのに、居室で人が亡くなるたびに事故物件化され、新たに賃貸できない、賃貸できるとしても賃料が著しく低廉になることは不合理ですからね。

あくまでも考え方の整理にとどまるため、法的評価はこれからの課題です。
ただ、このような考え方をベースにしつつ、むしろ孤独死の事実もあえて説明・告知することで、そうなんですかと受け入れられる社会になることが望ましいですね。