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「正直不動産」(第72直)レビュー 地味だけど、大切、複雑、地役権②

「正直不動産」、予想の斜め上の展開です。

前回のあらすじは以下のとおり。

yhiro.hatenadiary.jp

菅沼は、永瀬から最高裁判例を伝授され、それを武器にミネルヴァ不動産と戦うとばかり思ってましたが、裏切られました(いい意味で)。

そんな菅沼の秘策とは?

 あらすじ(ネタばれあります 核心はビックコミックで)

登場人物

永瀬財地 登坂不動産の副課長
かつては成約のためには嘘も厭わないエース営業だったが、
ひょんなことから上手く嘘がつけなくなってしまった。

菅沼直樹 登坂不動産の係長
かつて永瀬の教育係。人はいいが、実力のほどは・・・。

西岡将生 ミネルヴァ不動産の従業員
登坂不動産をクビになった因縁で、同社を目の敵に。

あらすじ

西岡から月5万円の通行料を請求され、慌てる中村夫妻。
「通行料なんて払いませんよ。」「あなたが払ってくださいね。」「責任ないはずないでしょ。」と、菅沼に迫ります。
菅沼、汗びっしょりで、これでもかと白目剥く。

20年近いサラリーマン人生で身につけた事なかれ主義力を発揮する菅沼。ミネルヴァ不動産に事なかれ解決案を提案、解決寸前まで漕ぎ着けます。
しかし、嘘をつけない永瀬が正論で介入、裁判も辞さないなどと強硬策を主張し、物別れに。

困り果てた菅沼ですが、同僚とのやりとりをきっかけに、裁判はしない、通行料は支払わない、けど早期解決できる秘策を実行します。

通行地役権の対抗

前回お伝えのとおり、通行地役権は、「存在(成立)」と「主張(対抗)」に分けて考えます。

登記がなくても「主張(対抗)」できる場合あり

冒頭のとおり、菅沼は、最高裁判例を武器に、お向かいと中村夫妻との間に存在(成立)していた無料の通行地役権を、新しいお向かいになったミネルヴァ不動産に主張(対抗)するものとばかり思っていました。

通行地役権を、当事者(中村夫妻の以前のお向かい)に主張(対抗)するには登記は不要。
これに対し、新たな第三者(以前のお向かいから譲り受けたミネルヴァ不動産)に主張(対抗)するには登記が必要。
登記のない中村夫妻は、ミネルヴァ不動産に無料の通行地役権を主張(対抗)できないはずでした。

ただ、最高裁判所は、例外として、登記がなくても、通行地役権を第三者に主張(対抗)するケースを認めています。簡単にいえば、以下の2つを充たす場合です。

1つめ
新たな第三者が、土地取得時に、その土地が継続的に通路として使用されていることがその位置、形状、構造等の物理的状況から客観的に明らか。

2つめ
かつ、その第三者がそのことを認識していたか又は認識することが可能であった。

要するに、「通行されてるって知ってて買ったんでしょ。知らなかったなんておかしいよ。」ということです。

中村夫妻の前面道路が、継続的に通路として使用されていたことは明らか。
ミネルヴァ不動産は、宅地と前面道路の購入時、「通行されてるって知ってて買ったんでしょ。」の状態です。
ですから、中村夫妻は、登記がなくても、以前のお向かいとの無料の通行地役権を、新しい第三者、ミネルヴァ不動産に対抗できるのです。

強硬策を主張した永瀬の念頭には、これがあったのでしょう。

強硬策がも選択肢の1つ

でも、判例を武器に戦い抜くには、裁判に高額な費用、時間(1年~2年)を費やさなければなりません。ストレスも相当なもの。
決済を終えて、転居までした中村夫妻が、それやるの?って話です。

そこで、菅沼、秘策の実行を優先し、解決に導きました。

確かに、秘策のハードルは高い。ですが、「礼儀正しさ」「誠実さ」「譲り合いの心」で乗り越えたようです。

ただ、秘策では、ミネルヴァ不動産所有の前面道路への通行は棚上げになります。
けど、ミネルヴァ不動産はいずれ売却して手放します。ミネルヴァ不動産がいなくなれば、通行の妨害もなくなるって、菅沼は読んでいたに違いありません。

まとめ

今回は、最高裁判例を武器にミネルヴァ不動産と戦えるはずでしたが、早期解決を優先。顧客はもちろん、登坂不動産、菅沼にとっても、よい解決となりました。

「礼儀正しさ」「誠実さ」「譲り合いの心」の菅沼、高倉健日本エレキテル連合に化けた大河部長ともども、サブキャラが大活躍の巻。

影が薄かったけど、菅沼のこれからがが楽しみです!

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