不動産あれこれ

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地面師事件 媒介業者が責任問われることも

積水ハウスの地面師事件で、主導役とされる1人に懲役11年の判決が言い渡されました。

積水ハウス地面師事件、主導役に懲役11年判決「中心的立場で誠に悪質」(読売新聞オンライン) - Yahoo!ニュース

だまし取られた金額は約55億円。地面師への損害賠償請求は当然ですが、回収は事実上不可能です。
では、「こんな契約を媒介した業者に責任がある。」と、その矛先が媒介業者に向けられたら?
この事件ではありませんが、媒介業者に損害賠償を命じた判決があります。

地面師事件の態様は様々です。

積水ハウスの地面師事件は、本人確認の不手際で、現所有者を名乗る売主を偽と見抜けなかった事案でした。

これから紹介する件は、転売事案ですが、第1売買が偽と見抜けなかった事案です。

 事案 第1売買が偽で手付金をだまし取られる

f:id:YHIRO:20200531161646p:plain図の AとXは、以下の不動産売買契約を締結し、Xは手付金500万円を支払いました。

売  主 A
買  主 X(後の原告)
媒介業者 A側(売側)はB
     X側(買側)はY(後の被告)

図の① この売買は、以下の第1売買(図の①)を前提とする、第2売買でした。

売  主 現所有者
買  主 A
媒介業者 D

買主Xも媒介Yも、この第1売買の真正を信じる理由がありました。
A側より、第1売買の契約書、重説、手付金の領収書の原本を示されていたのです。

ところが、第2売買契約締結後、Xが、第1売買の契約書にあった媒介業者Dに確認したところ、この第1売買が存在せず偽であることが判明します。

XはYに対し、Yが第1売買の真正確認を怠り、媒介業者としての責務(善管注意義務)に違反したとして、手付金相当額500万円の損害賠償を求め訴訟を提起しました。

実は、買主Xも宅建業者です。媒介Yと一緒に騙されてしまっていたわけです。

判決 400万円の賠償を命ずる

媒介Yの善管注意義務違反あり

裁判所は、Yの善管注意義務違反を認め、賠償を命じました。
その理由は以下のとおりです。

① (後述する)第1売買の真正を疑う事情があった以上、Yは、媒介業者の責務として、第1売買の媒介Dに連絡を試みる等で、その真正を確認すべきだった。
② 実際、確認すれば、第1売買は偽であると容易に判明した。
③ なのに、その確認を怠ったことは、媒介業者としての責務に違反する。これにより、Xに手付金相当額の損害を与えたのだから、その賠償をすべきである。

契約書、重説、手付金の領収書もあったのに

先ほどのとおり、買主Xも媒介Yも、A側より、第1売買の契約書、重説、手付金の領収書(原本)を示され、第1売買の真正を信じていました。
ですが、裁判所は、それでも真正を疑う事情があれば、形式的な書面にとどまらない、さらなる確認をすべきだったと判断したわけです。

真正を疑う事情はこんな感じ

裁判所が真正を疑う事情として挙げたものは以下のとおりです。
後からみれば、「念のため第1売買の関係者に確認すればよかったのに。」と思わせるものばかり。前述の売買契約書等の存在が、判断を鈍らせたのでしょう。

〇 第2売買の契約場所が、契約当日に売主A側の事務所から変更された。
〇 買主X側にて、このA側事務所を訪問して確認したところ、事前の説明と異なる会社名が掲げられていた。
〇 売主A側より、第1売買の契約書に記載の決済日が延期されたと説明があったが、これを裏付ける合意書がない。
〇 買主Xの代表も「いやな予感がする」と疑念を深めていた(媒介Yの代表は、逆に「他にも購入希望者がいる」などと説得して契約を促した事情あり。)。

なぜ400万円なのか

裁判所が支払いを命じた金額は、400万円にとどまります。
「買主Xも不動産業者なのに、簡単に信じすぎ。」と、20%(100万円分)の過失相殺が認められたのです。

まとめ

第1売買がないのにあるかのように装われた地面師事件、その真正を確認しなかった媒介業者に損害賠償が命じられた事案でした。

後からみれば、「念のため確認すればよかったのに。」ですが、それは当事者じゃないからいえること。

第1売買の契約書、重説、手付金の領収書があるのです(いずれも原本 偽造でしょうが)。さらに、不動産取引は一期一会、これを逃したら次はない、ましてや「他にも購入希望者がいる。」なんて言われれば、リスク管理なんて二の次(っていうか無視)という買主がいても不思議ではありません。

媒介業者にはこれにストップをかけることが期待されます。ですが、利益を目の前に確認が甘くなることは買主と同じ。
当たり前のことを、当たり前に確認することが大切ですね。

このお話はここでおしまいです。

なお、冒頭の積水ハウスの事例ですが、概要は以下のとおりです。第1売買の真正ではなく、売主本人の確認に不手際がありました。

f:id:YHIRO:20200531161904p:plain

図の① 売主・中間業者にて第1売買契約、中間業者・積水ハウスにて第2売買契約が締結され、それぞれ仮登記がなされました。
このとき、積水ハウスは、中間業者に対し、手付金を支払っています。

図の② 第1売買、第2売買の決済により、積水ハウスは決済代金を支払いました。同社への所有権移転登記手続も申請されました。
しかし、同登記手続は法務局から却下され、所有者として振る舞っていた売主が、偽物だったと発覚します。

現所有者を名乗る売主への本人確認が不十分であったことが問題になった事案ですが、この本人確認についても、裁判上問題になった事例があります。

偽造も精巧になり、書類だけでは十分ではないともいえる昨今、裁判所は本人確認について、どこまで厳格に考えるのか。思わぬ損害を被らないよう、知って損はありません(結構厳しく考えているようですが。)。

長くなったので、これはまた次回。