不動産あれこれ

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「正直不動産」レビュー 地味だけど、大切、複雑、地役権

ビッグコミックで連載中の「正直不動産」が面白い。
ひょんなことから嘘をつけなくなったエース営業永瀬を通じ、不動産営業の本音を、リアル、コミカルに描いています。
2020.5.25号では巻頭カラー。テーマは、地味だけど不動産の命運を分ける通行地役権です。

 あらすじ(ネタばれあります)

登場人物

永瀬財地 登坂不動産の副課長
かつては成約のためには嘘も厭わないエース営業だったが、
ひょんなことから上手く嘘がつけなくなってしまった。

菅沼直樹 登坂不動産の係長
かつて永瀬の教育係。人はいいが、実力のほどは・・・。

西岡   ミネルヴァ不動産の従業員
登坂不動産をクビになった因縁で、同社を目の敵に。

あらすじ

菅沼は、顧客の中村夫妻に、東小金井の中古戸建てをお得な値段で紹介します。
「お得」な理由は、その敷地が公道に接してないから。公道へは、お向かい所有の前面道路(私道)を通行しなければなりません。

【イメージ】f:id:YHIRO:20200517120752p:plain

「普通に通れるの?」と心配する中村夫妻。
菅沼は、今回の中古戸建てを含む戸建て団地が完成したときから、お向かいとは無料で通行する旨の取り決めができていて、通行地役権があるから大丈夫と安心させます。
中村夫妻は安心して購入。
ところが、つい最近お向かいを購入したミネルヴァ不動産の西岡が登場。
「・・道路の所有者が弊社に変わったので、当然通行地役権について新たに契約を交わさなければなりません。」「・・通行料として毎月5万円を支払ってください。」と中村夫妻に迫ります。しかも、前面道路を封鎖(中村夫妻以外の隣近所にも迷惑)!
このままでは、中村夫妻は自宅に出入りできません。
どうする菅沼?

通行地役権は「存在(成立)」と「対抗」から考える 

「どうする菅沼?」の前に、通行地役権について。

通行地役権とは、通行目的で設定される地役権のこと。
敷地が公道に接してないと、公道へは他人の私有地を通行しなければなりません。もちろん勝手に通行できません。通行地役権は、この通行を正当化する法的権原の一つです。
「通行地役権に基づき、公道まであなたの土地を通行します。」といった風に使います。

「まとめ」でも触れますが、通行地役権は、地味ながら、不動産の取引・開発の命運を左右することもしばしばです。

さて、どうする菅沼?
次回の後編を待ちつつ、通行地役権のポイントを、「存在(成立)」と「対抗」から紹介します。

通行地役権は存在(成立)しているの?「合意」と「時効取得」

中村夫妻を守るには、そもそも、中村夫妻のもとで通行地役権が存在(成立)していなければなりません。
ただ、これは問題なさそうです。
なぜなら、菅沼によると、今回の中古戸建てを含む戸建て団地が完成したときから、中村夫妻の敷地については、お向かいが、その所有する前面道路を無料で通行することを了承していたからです。
それが事実なら、中村夫妻は、敷地とともにその地位を承継し、無料で通行する通行地役権を有していることになります(後述しますが、これをミネルヴァ不動産にもいえるかは別問題。)。

ちなみに、通行地役権が存在(成立)するのは、以下の場合です。

合意
菅沼は「この権利は原則として・・・所有者と使用者の合意に基づく契約で決められるのですが、」と説明しています。
この合意は、さらに明示の合意と黙示の合意に分けられます。

明示の合意は、通行地役権の合意が明確になされている場合です。
契約書が典型例ですね。

黙示の合意は、明示の合意がなくても、例えば前面道路の所有者が通路を開設して通行を許していた等の諸事情により、当事者はそのつもりだったでしょうと認められる場合です。

時効取得
合意がなくても、一定の要件のもと、通行地役権を時効取得することもあります。
菅沼が「この権利は原則として・・・所有者と使用者の合意に基づく契約で決められるのですが、」と述べたのは、合意ではなく時効取得にて通行地役権が成立する余地があるからです。菅沼、ナイス説明です。

その通行地役権は主張(対抗)できるの?登記があれば主張(対抗)できる

ただ、通行地役権は存在(成立)するだけでなく、相手方にこれを主張(対抗)できなければなりません。

中村夫妻でいえば、取り決めで通行を了承していたお向かい本人にはこれを主張(対抗)できます。
しかし、今回は、お向かい本人ではなく、その人から譲り受けたミネルヴァ不動産(いわゆる「第三者」)が相手です。
ミネルヴァ不動産としては、~それは、お宅と以前のお向かいさんとの話。ウチには関係ない。~ということでしょう。だから、「・・道路の所有者が弊社に変わったので、当然通行地役権について新たに契約をかわさなければなりません。」「・・通行料として毎月5万円を支払ってください。」と迫るわけです。

詳細は割愛しますが、了承した本人以外の第三者に通行地役権を主張(対抗)するには、登記が必要です。
けど、一般的に通行地役権って、登記されません。通行を許された側は、「通行を許してくれたのに、登記までお願いできない。」と遠慮して、登記まで求めないからです(そもそも登記という発想自体ない場合もありますが。)。
今回の前面道路についても、通行地役権の登記はなさそうです。登記があれば、中村夫妻の勝ちで、このお話しは終わりです。

では、登記がないと、例外なく主張(対抗)できないのか。もしそうなら、中村夫妻は無料の通行地役権を主張(対抗)できず、ミネルヴァ不動産の要求を飲まなければならないということに・・。
後編では、この主張(対抗)を巡るやりとりを楽しみに待ちましょう。
菅沼頑張れ!

まとめ

 公道に接しない土地は、公道に出るための通行地役権等の通行権がないと、通常使えない土地とされ、取引や開発から敬遠されてしまいます。
また、公道に接する土地でも、他のどこかの土地のために通行地役権の対象になっていたら、通行を妨げる利用はできず、取引や開発に大きな制約となってしまいます。

日々の通行はなんとなくなので軽く考えがちですが、いざ取引・開発となるとシビアに噴出するのが、通行の問題。

特に事業者が購入した土地の一部が、実は他人の通行の対象となっていて紛争に発展、事業が遅延なんてことはよくあります。「通行地役権があるから塀をたてないで!」「好意で使わせてただけで、通行地役権の合意なんてありませんよ!」といったやりとりですね。
購入する土地が公道に接しているかどうかはもちろん、他の土地のための通行の対象になっていないかも、充分にチェックしましょう。

ビックコミック、新刊は5月25日頃発売です。